こぶれ2018年4月号
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みどりの風著・三軒茶屋ニコ 今冬の寒さ初めて体験しました。 歳時記の冬の俳句季語も新しいものを作り出さんと――思うほど。 「雪」「冬の山」「枯野」「氷」「湯ゆ豆どう腐ふ」「炬こたつ燵」「焚たき火び」「酉とりの市いち」など定番ものでは太た刀ち打うちできない。 それは隠れたベストセラーと言われている歳時記の書き換えにつながります。歳時記は何世紀にわたって日本人の美意識のふるいにかけられ、磨みがき抜かれて残った言葉の集大成。 これが破壊され、否定される寒さがやってくるとは……弱くなった頭をふりしぼって「ド寒さむ」しか思いつきません。 地ド方サ回りの旅一座の開幕と同時に飛び出してきそうな「ド寒さむ!」のセリフですよ。 今冬の寒さは身を切られるような激痛、苦しさが迫り、備え付けの暖房器具では追いつきません。 氷河期に向かっているのではと恐怖さえおぼえます。加齢の老人、体調不良の方には、耐えるという甘いものでなく〝ド極刑〟ものですぞ。 テレビのチャンネルを回しても「史上最悪の寒さ」「まだまだ大寒波は続く」など初めての経験とあって見出しにも苦労されているようで。 これに輪をかけた平ピヨンチヤン昌冬季五輪。日本人の熱い大健闘にも平昌の大雪、寒さを実感するだけで身が凍こおりつきそうです。 唯一の安らぎは、裏庭にある紅梅の開花。 風雪、寒さに耐え、凜りんとして一輪も散らない孤高の強さ、美しさに見とれます。 二十数年前、東京から帰崎する時、家人が記念に持ってきて植えたものです。 湯島天神の白梅もありましたが、こちらは枯れてしまい、紅梅だけ。「白と赤」だったらと今冬に思うこの頃です。 紅梅を無心に眺めていると、ふと対馬の小学校時代にかえります。ここにも大陸からの季節風。  玄界灘の冷風で「さむうて……さむうて」通学するのがつらくて、つらくて性がありませんでした。 三月は終業式。優等賞、努力賞に並んで地味ですが皆かい勤きん賞ってのがありました。 今はどうなんですか。この皆勤賞の常連がいました。梅野クン。(名前は忘却) 梅野という姓、対馬には結構いました。梅の産地でもないのに……です。 梅野クン、目が悪く「黒板の字が見えない」のでいつも最前列。担当教諭が気き遣づかって「梅野、目を治したいんだったら、空を見ろ、天を見ろ」と口グセのように指示をしていました。 空と目の因果関係は医学的にどうなのか分かりませんが、よく校庭に出て空をながめていました。 彼のすごさは(知っているかぎり)小学三年から卒業まで皆勤賞でした。 確か一時間半かけて徒歩で通学。優等生より立派、りっぱ。 ド極寒の今冬、彼はどうしているのか。大陸からの寒風に突っ立ち、空を仰あおいでいるのでしょうか。 それは紅梅の孤高の強さ、美しさに重なります。 ド極寒(おーさむ)2

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