こぶれ2018年5月号
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みどりの風著・三軒茶屋ニコ 「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」――名作、川端康成の「雪国」の書き出しを思い出します。 「今冬の身も心も凍るド寒波が去ると春の国だった」、こんなことを口ずさみたくなる春の陽光に雀喜です。 しかも舞台は野外の桜。もう満開(三月中旬)。風が吹けば四散しそうな寸前です。 桜は群むれ桜ざくらがいい。 ヤマザクラ、オオシロザクラ、オオシマザクラか。明治初期にソメイヨシノが学術的に誕生し、これが主流になっているようです。全国的に、です。 だからひっそりたたずんでいる群桜を見つけたくなります。 桜が花見になっていますが、元は梅が花見の主役。 ところが寒い、冷たい野外は、じっくり花を賞めでることが敬遠され、平安時代にある天皇が京都、地主神社の境内にある花を見つけ「これは!?」。 サクラの花と分かり、その優雅な美しさに貴族たちの間で流行し「花見は桜」となったようで(諸説ありますが)現代の花見につながっているようです。 桜の名所に人が押しかけ花々しいにぎ合いを見せている。それだけに山野にポッンとたたずむ群桜を見つけ、そこに行きたくなるのも人情?です。 人間の欲も多様で植物を愛でるのにあけば、次は鳥と移り気になるようで……。 春のしゅん動する小鳥たちのさえずり。冬から訪れているメジロ、名も知らぬ野鳥たちのさえずりに癒いやされます。 室内に閉じこもってその音を聞くのでなく野外で春本番とともに舞台に登場するウグイス(鶯)。 全長16㌢~14㌢で東アジアに分布。鳴き声を楽しむために飼育された文字どおり声楽鳥。春告つげ鳥。 鳴き声がお経に似ているので経読み鳥とも。人来鳥(ひとくどり)、愛宕鳥(あたごどり)など別名も多い。 〽ホーケキョ ホーケキョ…… この声をあっちこっちで聞きましたが、記憶にあるのは五島有川湾のウグイスの音。  なかでも最高だと思うのは、鹿児島の長島港のそれ。四月中旬でしたか、船が港に入り、着岸準備をしていたら、 例の〽ホーケキョ、です。 狭い港をかこんだ樹木の間からもれてきました。その鳴き声が海面に降り、ツーと小走り、船に寄ってくるのです。 舞台装置も樹木、海とそろえ、それを使って鳴き声。あの鳴き声をもう一度、鑑賞したいものです。 鶯の声    遠き日も      暮れにけり   蕪村 句意は難しくよーくわかりませんが、情景は長島港のウグイスの鳴き声と港のたたずまいを再見します。春の贈おくり物もの2

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