こぶれ2017年7月号
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 我が家の近くの散歩圏内にある市場がやまり、魚屋と野菜屋だけの二店舗が居残っている。 買い物難民のお年寄りさんが上得意客らしい。 ご多分にもれず新興住宅地の建設ラッシュで客足が町中心部のコンビニ、スーパーに客の流れが向き、往時の25店もわずか2店。 魚屋さんがボヤきますな。「30年前までは飯めし食う暇もないほど。これも世の流れですかネ」。 土曜丑うしの日のうなぎポスター。「今月は25日です。仕入れますのでお願いします」。 江戸時代、夏場は売り上げが落ちると相談された平賀源内が「本日土曜丑の日」というキャッチコピーを考え、うなぎのPR、これが二百年以上経った今でも「うなぎを食って体力をつける」習慣が続いている。 名コピーライターです。 平賀源内で思い出した。秋田県の劇団「わらび座」のオリジナル劇「奇想天外ミュージカルげんない」長崎公演を観た。 家人のバースデイプレゼント。数十年ぶりの観劇。 ストーリーは高松・志度浦が生んだ発明家、浄瑠璃作者の平賀源内が世界でも珍しい電気発生器エレキテルを完成させたものの、生み出す火花は何の役にも立たず、江戸両国の見世物小屋でエレキテルショーを始めて稼ぐことにした。 横内謙介作・演出と振り付けラッキィ池田の息の合った舞台で源内をはじめ杉田玄白役の西彼長与町出身の戎えびす本もとみろが熱演。 舞台せましと演出の狙ねらい「未来よ、やって来い!過去は変えられぬ、ただひとつ人のチカラで未来は変えられる」と唄、踊りが圧倒、舞台を魅了した。 舞台背景には、江戸時代。庶民が夢見ることを許される時代でなかっただけに源内とその仲間の自由奔放のパワーとエネルギーを活写し、ある種の感動も。 演劇の面白さを見せつけられました。 派手なカーテンコールもなく演技者と観客が一体となりハンカチを振り合う交流のみ。清々しさも残しましたよ。 お芝居ついでに地味だが味のある小劇団の俳優・六角精児さんのエッセイがとても気になる。 「老化現象に悩まされている。必ずどこかでミスをする。セリフと違う言葉を口走ったり、人のセリフの前に自分が誤って喋る……脳の老化か。一番厄介なのはセリフが頭からゴッソリ抜け落ちること。芝居仲間で言う『セリフがとぶ』こと。これが出ると俳優の責任でお芝居そのものをこわしてしまう。もうお手上げです」。 某大劇場でベテラン俳優がセリフを忘れたのを目撃。 プロンプターが陰からこっそり教えているが、え、何?声が聞こえないらしく、とうとう「もっと大声で言え」。 会場全体に響き渡るプロンプターの声、同じ言葉を堂々と繰り返すベテラン俳優さん。思わぬところでその方の大らかさと貫禄を垣間見た瞬間の六角さん自ら大拍手。 筆者も原稿用紙に向かい1字も浮かばず何んにも書けなかったら……。 プロンプターはいない。自力だけです。 「セリフが飛ぶ」はどの世界にも必ずくる。 その対処は? 絶対逃げたらあきません。 舞台中央に突っ立ちニヤリとする不敵さです。 生きている限りですね。セリフがとぶ2

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