こぶれ2020年1月号
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みどりの風著・三軒茶屋ニコ 新年号になると、何をどう書くのか、やはり思案します。 10年も連載し駄文を重ねているせめての罪ほろぼしですか。 夢とロマンのあるものと考えても現代ではなくなっています。大判、小判がザクザクなんて子供だまし。 それより……これは難問。だいたい宝物は地下にあります。そこで埋まっているかも知れない遺い構こう、遺物の歴史上、重要な文化財ではどうだ。 畏敬する先輩で西九州文学を主宰していた定来文彬さんが同誌に書いた、題名は忘却したが、物語の主筋と関係ない数行に「長崎県庁の地下に大変な宝物が埋まっている」と古老が漏らした話が、頭にこびりついていました。 当時、県庁回りの新聞記者の頃に書かれたものでしょう。 昨年10月、県庁跡地で約1年間の見通しで発掘調査が始まっています。バスの往来で現場作業を窓越しにながめソワソワしていました。 県庁跡地は450年ほど前、江戸時代の禁教令以前にキリスト教の拠点であった「岬の教会」があり、禁教後は長崎奉行所西役所が置かれ、鎖国前の日本外交の舞台になったところ。 岬の教会はイエズス会本部も置かれて日本のキリスト教史上極めて重要な場所。 幕末には長崎海軍伝習所、医学伝習所として使われるなど、跡地は眠れる文化遺産が埋もれているのでは……。 「ひょっとしたら何か出るのか」素人ならずとも興味津々。歴史研究者や知識人が中心になり動いているのが「長崎県庁跡地遺い構こうを考える会」です。脚本家の市川森一さんも強く要望していました。 県は県庁舎の移転に伴って江戸町の旧庁舎を取り壊こわし、跡地に「賑にぎわいと憩いの広場」「文化芸術ホール」など構想をまとめている。 長崎市も「文化芸術ホール」を建設します。〝外堀〟は埋められました。 こうした状況の中で旧県庁舎跡地発掘(調査)今年秋までに「何も出土がない」なら埋蔵物なしで、夢もロマンも消えてしまいそうです。ハコ物文化施設の誕生に変わります。  その意味でも今度の発掘調査が最後のチャンス。もし埋蔵文化があるのなら県民の財産、令和の新年の夢とロマンのスタートと言っても過か言ごんではありません。 筆者は、夢とロマン――これを執筆できるのは前述した定来先輩のみ。 かつて同人誌掲載の作品が、ある有名文学賞候補になったことは、知る人ぞ知る――ご本人の謙虚さで自慢することもありませんでした。 長崎新聞文化部長などを歴任しましたが、すばらしい新聞記者でした。 先輩のストーリーテラー、豊かな構想力、筆力でもってすれば、地下に眠る宝物の話を、ナガサキの歴史的土地を生かし、夢とロマンの物語を展開して、いただいたのに悔やまれてなりません。地底に眠る宝物2

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